なぜクローゼットは虫の楽園になるのか
衣類を食べる虫が家の中に侵入した後、彼らが最終的に目指す場所、それはクローゼットやタンスといった衣類の収納スペースです。なぜこれらの場所は、虫たちにとって繁殖の楽園となってしまうのでしょうか。その理由は、彼らが生きるために必要な条件が完璧に揃っているからです。第一に、クローゼットは暗く、静かで、外敵から身を守ることができる安全な空間です。扉を閉めれば光は遮られ、人の出入りも限られているため、安心して産卵し、幼虫が成長するのに最適な環境と言えます。第二に、湿度が高まりやすいという点です。特に梅雨の時期や、風通しの悪いクローゼットの奥は湿気がこもりやすく、多くの虫が好むジメジメとした環境が生まれます。衣類自体も湿気を吸い込むため、虫にとって快適な住処を提供してしまうのです。そして最も重要なのが、豊富な餌の存在です。ヒメカツオブシムシやイガの幼虫が食べるのは、ウールやシルク、カシミヤといった動物性繊維に含まれるケラチンというタンパク質です。しかし、彼らの好物はそれだけではありません。一度着用した衣類に付着した、目には見えない皮脂や汗、フケ、食べこぼしのシミなども、彼らにとっては大好物です。化学繊維の衣類でも、こうした汚れが付着していれば食害の対象となります。つまり、汚れた衣類を洗濯せずにクローゼットに戻す行為は、虫に餌を差し出しているのと同じことなのです。暗さ、湿気、そして豊富な餌。この三つの条件が揃ったクローゼットは、侵入してきた虫にとってまさに五つ星ホテルです。この楽園を虫にとって住みにくい環境に変えること、それが防虫対策の基本となります。